小学生のころ、ミノムシは身の回りにある何でもを蓑にする、
という実験をしたことがある。
ワタシたちが班で使った蓑の材料は細かく裁断した色紙だった。
他の班はどうだったか忘れたけど、
色とりどりの蓑が出来上がって感激した記憶がある。
そのくらい、ワタシが子どものときも珍奇な虫として見ていた。
街を歩いていても、東津野くらいのイナカであっても、
ミノムシにお目にかかることは少ない。
だから、見るとちょっとうれしかった。
父が子どものころはかなり事情が違う。
天狗高原のすぐ“下”の集落にあった父たちの家の周辺は
ま、当然ながら山の中、目の前の道路も舗装されていないところ、
ついでにいえば、雪の時期にはスキーで学校に通うくらいの感じ。
となると、意識せずとも周囲は木々や植物しかないし、
そこで生活をするミノムシたちとの日常はあまりに普通だったので
特に注目して目にとめることもなかったと。
庭を見回してみると、ミノムシの蓑がたくさん木に“成って”いたので、
父は「ミノムシを見せちゃお」と得意げに言って、
だいぶんご無沙汰の“近所の幼馴染み”を紹介してくれた。
庭で見つけられたのは2つの蓑。
そのミノムシを見ようとワラワラと庭に出て背伸びしていると、
後方から、「それはたぶん、ミノガやね」と姉の声が飛んでくる。
「蓑を作るのは雌。雌は一生を蓑の中で過ごすがで」。
雄が雌の蓑の中に入って生殖行為を行い、
雌は蓑の中で産卵をして卵を守り、最後は蓑からポトリと落ちて死ぬらしい。
「へぇ」と感心して見ていると、聞いてもいないのに、
ミノガの生態についてのウンチクが始まった。
自分は昔、蓑の中で過ごしたことがある、というくらいの口ぶり。
頭の中は、ミノムシを見ることでいっぱいだったので内容は覚えていない。
ただ、姉はなぜこのようなことを知っているのだろうと
感心半分、呆れ半分に思ったのだった。
蓑を被って身を隠すミノムシは、やっぱりちょっと愛らしい。
小さな小さな自分の居場所に一生懸命隠れている。
隠れているから見つけたくなる、見つけたら自慢したくなるもんで。