クマガイソウ。大きく膨らんだ唇弁がどっしりと。いくつかの鳥類とも似てなくない...か。 |
うちを訪れてくる知人のうちの数人くらい、
「せっかくやから庭を見ちゃろと思って」と
玄関でなく庭を回ってやってくる人もいる。
そのうちの一人が、父の妹で、私のおばさん。
ある日、おばさんは、元気よく「やあ」と手を挙げながら現れた。
「ここの庭は、野草がのびのび生えるのにちょうどええがやねぇ」
ふたりでのんびり、縁側に座って庭を眺める。
「クマガイソウはね、U下さんくの庭に群生しちゅうけど、ここも見事やねぇ」
ふーん、と思いながらクマガイソウに目をやる。
厚くだらしなげな唇で、オーガニックにキメたセクシーポーズ、
それにほんのりの紫の紅。
一本ずつを見れば、確かに、どことなく気高くもキケンな雰囲気が漂う。
一本ずつを見れば、確かに、どことなく気高くもキケンな雰囲気が漂う。
でもその一方、大きな唇弁や、エリマキトカゲみたいな大きな襟(葉)は、
なんだかやり過ぎ感もあってやや間抜けだ。
いったい、どこのどなたに向けたアピールなのだろう。
人間に向けてなら、その唇も葉も、
もうほんのちょっとだけ小さいほうが絵になるだろうに。
いったい、どこのどなたに向けたアピールなのだろう。
人間に向けてなら、その唇も葉も、
もうほんのちょっとだけ小さいほうが絵になるだろうに。
珍しい花だし、見知らぬ人なら「ほぅ」と感心するのだろうが、
うちの庭でいくつも並んで立っている様は、
なんだか少し滑稽にも思えて笑ってしまう。
そういう「痘痕」のあるものは、
「私しか好きになってあげられないはず」という気分をそそる。
なんだか少し滑稽にも思えて笑ってしまう。
そういう「痘痕」のあるものは、
「私しか好きになってあげられないはず」という気分をそそる。
私の好みは、四方八方にバランスよく笑みを向ける花よりも、
クマガイソウみたいに、すべての人にわかりやすくなさそうな花のよう。
「私はねぇ、クマガイソウが好きよ」と言うと、おばさんは、
「私もねぇ、若いころはこういう野草が好きやった。
でもね、今は派手でわかりやすいのがいい」と答えた。
「年をとるといっしょに失われていくものを、“好み”で補いゆうがかもしれん」
そういってもう一度、うちの庭を見まわしてみると、
おばさんの好きそうな花はありそうになかった。
「どうもそんなのは、うちの庭にはなさそうやね」というと、
「まぁ、まぁ、これはこれで」。ウフフと笑ってコーヒーをすすった。
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